ママのこと

妊娠中の腰の痛みとその予防

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妊婦さんから、「今までなんでもなかったのに、急に腰が痛くなってきた」、「今までより腰の痛みがひどくなった」という声がよく聞かれます。腰の痛みは、妊娠、出産以降に最もよくみられます。妊娠すると、少しずつおなかが前方へせり出し、重心が前方へ移動することによって、足腰への負担が大きくなることと大きく関係しています。ほかにも妊娠前からの腰痛、からだへの重い負荷(職業等によっても)、多産、肥満なども原因としてあげられます。

産後も、授乳動作、赤ちゃんの床からの抱き上げ動作などによって、腰部への負担は大きくなり、症状を悪化または慢性化させます。産後の腰痛の慢性化は産後6~8週間で40%、産後1年で67%、産後2年で21%位生じているようです。産後の腰痛には運動が効果的で、骨盤痛(→知っておきたい、妊娠中の骨盤の痛みをご参照ください)には運動と骨盤ベルトの併用が推奨されています。おなかが大きくて動きにくくなっても、簡単なストレッチから始めるなど、なるべく運動することを心がけてください。

妊娠中は適度な運動を

妊娠中からストレッチや全身運動を行っておくことは、呼吸循環器系の健康向上、尿失禁や腰痛の改善、うつ状態の軽減などにもプラスに働くことが知られています。また、自然な普通分娩を増加させ、帝王切開や吸引分娩、鉗子分娩も減少させると言われています。

出産のときには、おなかの中の赤ちゃんを押し出すために腹筋と横隔膜を使い、骨盤のゆるみや伸張が必要になります。妊娠後期には、出産の準備として、下記のような運動をお勧めします。ただし、自分の体調をみながら無理しない程度に、床にはマットやラグをひいて行うとよいと思います。

少し専門的になりますが、「妊婦スポーツの安全管理基準」※1によると、妊婦さんに適した運動の指標は、有酸素運動を最大酸素摂取量70%以下、 心拍数150回/分以下(簡単に言うと自覚的運動強度「やや楽」以下)です。軽い運動を平坦な場所で、1回60分以内を週2~3回、子宮の日内変動を考慮し10時~14時に実施することが望ましいとされています。

妊娠中は立ち方や歩き方にも注意を払って

立ったり、座ったりする動作は負担感の強い動作の1つです。おなかが大きいと十分に前方にかがむことができないため、立つ動作の際に足への負担が大きくなります。必要であれば、何か支えになるものにつかまって立ったり、少し足を開いて立ち上がると安定して立つことができます。また、安全な動作を確保するために、ゆっくり立ち上がって安定した姿勢になるまで、歩き始めないでください。妊婦さんの転倒は高齢者の転倒に匹敵するほど多いのが現状です。妊婦さんは歩行中でも、骨盤を水平位に保ちにくいため、振り出した足先がひっかかりやすくなっているので、注意が必要です。

また、お腹が大きいときは仰向けで寝るよりも、横向きで寝たほうが腰にかかる負担が少なくなります。抱き枕などを足に挟むことで、上側の足の重みによる腰の負担が少なくなります。

腰痛の症状が出てしまっている妊婦さんは、物を持ち上げる際に体をひねったり、跳ねる動作をできるだけ避けてください。疲れたら安静も大切です。座っても立っていても背筋を伸ばした正しい姿勢をできるだけ意識して、こまめに休憩することも忘れないでください。

※1 三宅秀彦,川端伊久乃,他:妊婦スポーツの安全管理基準. 日本臨床スポーツ医学会誌.18: 216-218,2010